書き起し:できたところまで

ひかる「先生」
マヤ「なんですか」
ひかる「あたしたち、先生に質問があります」
マヤ「(間)    言ってごらんなさい」
ひかる「どうして勉強するんですか、あたしたち。このまえ、先生は言いましたよね、いくら勉強していい大学やいい会社に入ったって、そんなの何の意味もないって。じゃあどうして勉強しなきゃいけないんですか。」
マヤ「・・・・・・・・いい加減、目覚めなさい。まだそんなことも分からないの?勉強は、しなきゃいけないものじゃありません。したいと思うものです。これからあなたたちは、知らないものや、理解できないものに沢山出会います。うつくしいなとか、たのしいなとか、不思議だなと思うものに、たくさん出会います。そのとき、もっともっとそのことを知りたい、勉強したいと自然に思うから、人間なんです。好奇心や探究心のない人間は人間じゃありません、サル以下です。自分たちの生きているこの世界のことを知ろうとしなくて、何ができるというんですか。いくら勉強したって、生きている限り、分からないことはいっぱいあります。世の中には、何でも知ったような顔をした大人がいっぱいいますが、あんなもの嘘っ八です。いい大学に入ろうが、いい会社に入ろうが、いくつになっても、勉強しようと思えばいくらでもできるんです。好奇心を失った瞬間、人間は死んだも同然です。勉強は、受験のためにするのではありません。立派な大人になるためにするんです」
馬場「先生」
マヤ「なんですか」
馬場「先生は、なんでそんなにあたしたちに厳しいんですか。なんであたしたちをいじめるようなことばかりするんですか」
マヤ「・・・・・・イメージできる?私があなたたちにした以上に酷いことは、世の中にいくらでもあるの。人間が生きているかぎり、いじめは永遠に存在するの。なぜなら、人間は弱い者をいじめるのに喜びを見出す動物だからです。悪い者や、強い者に立ち向かう人間なんて、ドラマや漫画の中だけの話であって、現実にはほとんどいないの。大事なのは、将来自分たちがそういういじめに逢ったときに、耐える力や、解決する方法を身につけることなんです。・・・・このなかには、もうその方法を知っている人がいるかもしれないわね、もしかしたら」
(和美、挙手)
マヤ「神田さん」
和美「どんなときも、味方でいてくれる友達をみつけることですか」
マヤ「そういう考え方もあるわね」
由介「先生」
マヤ「なんですか」  
由介「先生は頭もよくて運動も音楽もできるのに、どうしてこの学校に来るまえに教職員再教育センターなんかにいたんですか?なんか、前の学校で、受け持ったクラスの子をボッコボコにしたって聞いたんですけど、本当なんですか」
マヤ「本当よ」
由介「なんでそんなことしたんですか」
マヤ「その子が私にこう聞いたからよ。なぜ人を殺しちゃいけないんだって。
   その子は、頭もよくて身体も大きかったから、クラス中に恐れられていたの。事実その子のターゲットになった子は次々といじめられて、自殺未遂までする子もいた。でもその子は反省もせずこう言ったの。『なぜ人を殺してはいけないんですか』って。そう質問すれば、大人はちゃんと答えられないって知っていたのね彼は。だから私は彼に教えたの、他人の痛みを知れと。みんな、自分と同じ生身の人間なんだと。どんな人にもあなたの知らない素晴らしい人生があるんだと。一人一人の人間がもつ家族や愛や夢や希望や思い出や友情、それを奪う権利は誰にもありません。遺された遺族に、苦しみや痛みや悲しみを与える権利は誰にもありません。だから人を殺しちゃいけないんです。
   あなたたちも過ちを犯すかもしれないから肝に銘じておくことね、犯罪を犯した人間は必ずつかまります。逃げることができても、一生その呵責に苦しみます、周囲の人間からは見放されます。死ぬまで孤独です。もういいことは一つもありません。二度と幸せになんかなれません」
和美「先生」
マヤ「なんですか」
和美「先生は言いましたよね、この世で幸せになれるのはたったの6%だって、どうしてですか」
マヤ「事実だから仕方がないでしょ」
和美「あたしはそうじゃないと思います」
マヤ「            ・・・どうして?」
和美「幸せって、人によって違うんじゃないんですか、みんな違う人間なんだし、ここにいる24人には24通りの幸せがあるんじゃないんですか。サッカーやってるだけで幸せな人もいるし、好きな人といるだけで幸せな人もいるし、幸せって、決めるのは他人じゃなくて自分なんじゃないんですか。あたし、ここにいる24人はみんな幸せになれるとおもいます」
マヤ「         ・・・・・ずっと、その気持ちを持ち続けられれば、いいわね」
和美「先生、お願いです、本当のことを言ってください」
マヤ「なんのこと?」
和美「先生はホントはいい先生なんじゃないんですか。  ほら、ライオンは自分の子供を谷底に突き落とすって言うじゃないですか。アレと一緒で、わざと自分が悪者になってあたしたちに酷いことして、それであたしたちが強くなるようにし」
マヤ「失礼なことを言うのはやめなさい」
和美「え」
マヤ「私は、自分のやっていることが間違ってるとおもったことなんて、一度もありません」
訓示は以上