姉の結婚8巻(完結) 感想 ネタバレあり

最終的にはよかったと思うけど。
しかし違和感もある。
 
ちょっと間をあけますので話の内容が出てきますので読みたくない人は他のページへどうぞ。
 







 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 ではそろそろ開始したいと思いますが個人の感想です。
 
ヨリちゃんがどうしたいかってのははっきりしているが、問題は他人の邪魔が多いということで、かんたんにいって8巻は花井さんだけが邪魔をしているわけで、花井さんは金と権力をつかってドイツでの真木くんの暮らしにまとわりついたわけで、具体的には手紙を出すことを請け負っておいて出さないとか、ドイツにやってきたヨリちゃんに向かって嘘をつくとか(実際には花井さんと真木くんは肉体関係さえもなく愛情もないのにあるかのように嘘をついた)。そういう哀れな邪魔ものなのだが。
 
哀れ。なんでしょうね。
 
島での人気歌手のライブは成功して、公務員のおっさんが邪魔するのかと思ったらしなかったし、真木くんの元奥さんはそれなりに働いて生きているし(たぶんシングルマザーだし経済的には大変だと思うけどまあそれは気にしない)、新川さんは子供なかなかできなくても彼がいれば大丈夫だし、妹さんは子供が生まれたし、ここで気になるのはヨリちゃんの父母がどうやって穏やかに暮らしているかだけどまあなんとかなっていることとして、
 
ヨリちゃんがドイツから(花井さんに騙されて)帰宅してからふらふらと放浪してそしてまるで世捨て人のように島にたどりつくあたりは、いろいろではあるが他の物語の風景を思い出してしまう。
 桐野夏生「ダーク」の終わりあたり等。
 
 生きている人は普通はまあ仕事をしないと生きていけない(専業主婦だって専業主婦という仕事であるしそれをするのはただのアルバイトよりハードルの高いものだ)。
 ヨリちゃんは司書の資格を生かして島で仕事をしているわけだがもともとなんか「書評を書く」とかできてた人なのでそっちで生きるというパターンもあるのだが、失踪的な転地のあとのヨリちゃんはなるべく世間から隠れて生きていたい感じである。みずからベールの奥に隠れる感じである。
 
 なんだろう決定的に絶望したんだよ私はということを態度と行動で示すような感じである。
 
 決定的な諦念みたいなのを態度と行動であらわすという形はオレにとっては読書体験の原初のショックでもある三原順はみだしっ子」シリーズの最後の「つれていって」のラスト方面のグレアムの様子でおなじみである。
 
 もうなにかをしたいとは思わない、したいことは何もない、ほしいものも行きたいところもない、生きていたいとさえ思わない。積極的に自殺するほどのパワーも残っていない。そして誰かを喜ばせたいとは思わない、善意の欠如。家にいて、おきて食べてまた寝る。ただ生きているがただ生きているだけである。
 
 絶望直後で島のおばさんにかくまわれたヨリちゃんもそんな感じだったのだろうと思う、いやちょっと違うけどね・・・ 
 
 全体的に、7巻までのヨリちゃんは女一匹で生きてきて絶望しつつもなんだかんだエネルギーがあって活動があって仕事があって書評も書いて巨乳でおしゃれして東京などにも行って複数の人間から求婚されたりして結婚の形をいったんあきらめたけどまたなんとか何かをしようしてみたいしたらどうなるのかみたいなことを考えつつも、
 全体の流れとしては「真木くんには奥さんがいるから結婚できない」があって、あるけどしかし、7巻あたりで「奥さんがいようといまいと真木くんのことが好き」みたいな確信が生まれて、うまれたんならそれでいいじゃん、と思いきや、
 まあ簡単には終わらないのね、というのが花井さんの邪魔で絶望の刻印が一旦おされる8巻である。
 
 正直言うが花井さん程度の哀れなやつが邪魔したおかげで刻印が押されるなんて納得できない。なんかおかしい。運命をころがす役としては器が小さいと思える。
 
 はみだしっ子におけるフランクファーター氏はもっと恐ろしい悪魔のような人間だったぞ。
 
 いやそんな比較しちゃいかん。そもそもが違う話なのだ。
 
 ヨリちゃんに幸せになってほしいと誰もが思うし、最後にお見合いがあってお見合いの相手として真木くんが現れるという形はファンタジーが形式をともなって現実化したみたいな素敵な感じだがあまりに素敵すぎておそろしい。
 
 おそろしいが、全8巻、漫画としておもしろかった、おもしろかった。ふりかえってみて一番面白かったのはどこだろうか。長崎という街の風景だと思う。中崎、だけど。
 いままで西先生の作品では主に鹿児島市内とか指宿枕崎線の車窓とかそのへんだったが、長崎という坂ばかりの街もたいへんに見ごたえがあった。小道の階段、ふりかえって見る夜景、金持ちがいくレストラン、お屋敷、船着き場、フェリー、おいしそうな魚料理、適度に都会なところにしかないタイプの喫茶店
 
 ほんとうの田舎には「適度な喫茶店」が存在しない。
 
 おもえば結婚してからずっと7巻までずっと不倫関係をつづけていた真木くんの元妻も相当な人物だった。よくあれだけ変われるものだ。人間は変化する。
 人間は変化するというのが救いなのかもしれない、よくもわるくも変化する、絶望はいつか溶ける。いつか溶ける。