映画「FLEE」について

ー以下、ストーリーに言及しています悪しからずー

 

アフガニスタンから脱出した男性の経験をアニメーションとして描く作品

男性がアフガンを脱出したのはムジャヒディンが実質的にアフガンを支配するわずか直前のことである

そのとき彼はまだ少年だった

 

彼はいま北欧で暮らしている

彼はゲイである

 

本作において重要なことはいくつかあり

・実写で描くと顔が出てそれで政治的迫害がまだ続く可能性がありそれで匿名にしてアニメーションにせざるをえなかった

・とはいえアニメーションにしかできない表現がふんだんにある(とくに背景がとつぜん転じたり乳白色になったり人物の顔がのっぺらぼうになったり)

主観としてそう感じていることそのようにそこでは思ったことをアニメーションは的確に表現する

・そしてまたアニメーションではおおげさに泣くことなどの人間の「過剰な演技」も抑えられている

・「実話である」とテロップが出る

・実話ではあるし物語で演出の都合上嘘をついているところは無いと信じている(オレが)

・主人公はこの作品について「ぐずぐずうだうだ決断に時間がかかって すまんかったね」とコメントしている

・それは難民であることを「公開」することとまたゲイであることをアウティングすることの両方がそこに含まれているからだと思う

・とくに難民として一旦モスクワに行ったもののそこから外に出るために激しく苦労し警官の嫌がらせと闘い高層住宅にほぼ軟禁的な生活をするようにして暮らし

実際北欧に行ってからも生活を波風たてないようにするために素性や家族のことをなるべく他人にあからさまには語らないという方策をとってきたので

いつもびくびくして暮らすというそういう「心の傷」があるため「公開」することに心的状況がなじまないのだと思う

・ゲイであることについては彼は5~6歳のころから男性に心惹かれることに気づいており誰にも言わなかったが北欧にきてから長兄に告白している

・長兄は(略)

・彼は北欧にきて最終的には男性partnerを得た

・学問で身をたてている

・家族の犠牲もありなんとかして成功しなくてはと思っている(犠牲というのは金銭や逃亡の順番など とくに次兄などは「実質的に人生をだいなしにしてしまった」と彼は表現している)

 

・もっとも恐ろしいというか激しいというかの場面はロシアから出ていくためにブローカーとともに暗い夜の雪の森の中を歩いていくときに

他の難民でおばあさんがいて

歩けなくなり

ブローカーが「歩けないならここでオレが拳銃で殺してやる」と言って拳銃を持ち出すところである

これは実話なので本当にそういうことがあったということである

なんとかおばあさんを複数人でシーツのようなもので運搬していけるのだが

しかしそれで森を抜けたあとも船の船倉に閉じこもった状態でシケになり

仕方ないので甲板に出て水をかいだしたりして

そして

大きい豪華客船といきあうのだが

皆は甲板から客船に手を振って

これで助かると

思うのだが

実際には客船の客はスマホで難民船の写真をとるだけで

沿岸警備隊のようなものがきてとっつかまって

バルト三国のひとつに収容され

そこが難民収容所だ

そして人生はそこで止まってしまったように感じる

半年たってから

ここで一生すごすかロシアへ送還か

どっちかだと言われる

絶望というのはこのことだ

 

ストーリーをだいたい書いてしまったが

とにかくオレの心が

乱れるのである

こないだ

マイスモールランド

を見たときも

思ったが

難民はどこにいっても

結局

日本がとくに激烈に冷たいと思っていたが

そうでもなく

どこでも難民は

別にすぐに助かるわけじゃないし

国境を不法に超えたものとして

それは犯罪ということにさせられる

ただそれだけである

他にはなんら窃盗も強盗も殺人もしていない

でも犯罪だ

そして収容される

本人はなにも瑕疵がないのに収容され人生が

だいなしになるのである

そういうのが難民だ

政治

がそれをつくる

明かに政治がそれをつくっている

 

難民さもなくば政治犯として殺されるくらいのもので

じっさいこの映画の彼の「父」はあるひつかまってそれ以降は生死さえも明らかではないのである

国家権力またはその他の権力は簡単に人を殺す

ロシアの警官はかならずワイロを要求する

金がなければ体で払えと女性に言う

実際に強姦する(そこまでアニメは描いていないが明かだ)

彼はこれから強姦される女性を見捨てたことを後悔しているが実際なにもできなかったし抵抗しても暴力をふるわれて終わりだったし救いはない

 

世界が21世紀になってもそのようにそのままの状態

であることを知らされるしそこで考えろと要請

されるのである

考えないことは許されないのである

たまたま自国でそのまま生きてきた人間であるオレだが

 

国境を越えることを犯罪的に自覚的に行ってうまくやって逃げ切るやつがいて

そうでなくて難民として不法な人にされてる人もいて

同じことをしているわけでさえなく

 

と思う

 

ともあれ映画である

映画には終わりがあり

実話も

終わりは

実際には彼は生きているので終わっていないが

映画は終わりがある

あるのだ